海岸と漂着物
残したい風景や思い出が、波音とともにそこにある
波打ち際を歩く。静かなサンゴ礁、白い砂浜、蝶の舞う海岸林。水平線の向こうには知らない世界があり、後ろには自分の暮らしがある。見渡しても人工物が見えないことが私たちの誇り。
打ち上げられたサンゴは、津波や台風による波の力が運んだもの。強い風の日には、カツオノカンムリやギンカクラゲなど、普段は目にできない海を旅する生き物が流れ着く。海岸清掃は「しなくてよい未来」を考えながら、みんなで楽しく。
INTERPRETATION PLAN / 環境省 協力事業
石垣島平久保半島インタープリテーション全体計画 Ver.1.0(2025年3月)
環境省およびアウトフッターユニオンの協力のもと策定した計画です。5つの集落でたくさんの方から伺ったお話をもとに、地域の自然・文化・生業を9つのストーリーとしてまとめました。
半島の中央に伸びる山上からは東西の海岸と雄大なサンゴ礁をひとめに眺め、島を吹き抜ける風を味わうことができます。山裾には牧場とサトウキビ畑が穏やかに広がります。夜になればサガリバナが甘い香りを放ち、星空が天の川を描き出します。5つの集落にはそれぞれの成り立ちがあり、独自の祭りがあります。
そんな平久保半島の“あたりまえ”は、他のどこに行っても見つけられない“特別”です。
ABOUT
北から平野、平久保、久宇良、明石、伊原間の5つの集落。畜産やサトウキビ、野菜生産などの農業と、豊かな自然を味わう観光業が営まれています。生物多様性が豊かな地域でもあり、陸や海の多くが西表石垣国立公園の保護地域に指定されています。
地図には、5つの集落、平久保灯台、エコロード、3か所のサガリバナ群落、ヤシガニ保護地区、安良村跡、サビチ洞・平野洞、トムル崎が記されています。
KEYWORDS
半島の暮らしと自然を、絵と短い言葉で一望できるようにまとめたページです。ガイドや学習の入り口としてお使いください。
CALENDAR
星座、季節風、渡り鳥、農作物、祭り、漁。いつ何が見られるのかを1枚にまとめたカレンダーです。訪れる時期を選ぶときにも、地元の子どもたちが学ぶときにも使えます。
1〜6月は南十字星、7〜8月は夏の天の川と豊年祭、10〜12月はサシバの渡りとツチトリモチ。半島の一年が、そのまま観光の設計図になります。
NINE STORIES
各集落で伺ったお話をもとにまとめた9つのストーリーです。このストーリーブックに完成はありません。これからも語り合って、書き加えていきます。
海岸と漂着物
波打ち際を歩く。静かなサンゴ礁、白い砂浜、蝶の舞う海岸林。水平線の向こうには知らない世界があり、後ろには自分の暮らしがある。見渡しても人工物が見えないことが私たちの誇り。
打ち上げられたサンゴは、津波や台風による波の力が運んだもの。強い風の日には、カツオノカンムリやギンカクラゲなど、普段は目にできない海を旅する生き物が流れ着く。海岸清掃は「しなくてよい未来」を考えながら、みんなで楽しく。
サガリバナと保全活動
サガリバナは夏の夜に花を咲かせる。赤、白、ピンク、少しずつ異なる色の花。甘く強い香りが森に満ちる。地域のみんなで時間をかけて大切に育てたサガリバナ群落。そっと見守るように観察してほしい。
2016年に西表石垣国立公園が拡張され、平久保と久宇良のサガリバナ群落が国立公園に加わった。自生の大群落は石垣島と西表島にしか分布しておらず、全国的にも貴重。親しんでもらいたい自然もあれば、そっとしておきたい自然もある。
地質と地下水
平久保半島は2億年前の古い岩石でできている。その上に12万年前のサンゴ礁の岩石があり、それらの上に人の暮らしがある。2億年前と12万年前、そして今の私たちの暮らし。その間を縫うようにして水は巡る。
琉球石灰岩は、染み込んだ水をろ過し蓄える天然の浄化槽でありダムでもある。サビチ洞や平野洞などの鍾乳洞は、地下水が琉球石灰岩とトムル層の境界を流れることによってできた。共同憲章 第10条が守ろうとしているのは、この水である。
エコロードと安良村
平久保半島の東海岸に沿う「平久保半島エコロード」。伊原間から明石を経由し最北端平野まで続く総延長13.6kmの環境共生型道路。自然景観を優先し基本的に未舗装。急ぎ足は望まない。
かつて500人近くが暮らした安良村は、1771年の明和の大津波で壊滅的な被害を受け、1912年に廃村となった。現在は御嶽が文化財として残る。安良越地(やすらくいつ)の峠道は、今もかろうじて歩くことができる。
昔の暮らし
昔は自給自足があたりまえ。どの家も豚、ヤギ、ニワトリを飼っていた。学校に馬に乗って行くこともあった。養蚕も盛んだった。昔のように暮らすのは今では厳しいけれど、昔のような暮らしには新しい価値があるのかもしれない。
台風、旱魃、イノシシ被害。開拓当時の厳しい生活を、相互扶助・ユイマール精神で乗り越えた。1951年に伊原間へ自由移民、1955年に明石へ349人、1956年に久宇良へ254人・吉野へ108人・平久保へ151人、1957年に平野へ80人が入植した。
歴史と祭事
古くから続く村、平久保、伊原間。戦後の入植による村、平野、久宇良、明石。祭りや祭事、地域の決まり事、それぞれの村に歴史があり、誇りがある。今、新しい文化を育て、子孫に誇れる伝統とする時期が来た。
旧暦5月4日のフナクヤ海神祭、五穀豊穣を感謝する豊年祭、伊原間のマユンガナシ(真世加那志)、本島各地のチャンプルーから始まった明石のエイサー。集落ごとにそれぞれの歴史があり、特徴的な文化がある。
野生生物
遠くからカンムリワシの鳴き声が聞こえる。また今年もアカショウビンが渡ってきた。サンゴが卵を産んだにおいが鼻をかすめる。今夜くらい、ウミガメが卵を産みにきているかもしれない。
特別天然記念物カンムリワシをはじめ、希少な動植物があふれる。石垣島でヤシガニ保護地区が設定されているのは平久保半島だけ。一方でグリーンイグアナ、インドクジャク、オオヒキガエルなどの外来種が生態系を脅かしている。
体験型観光
雄大な風景や普段は見ることのない動植物。生き物に触れ、風に乗り、波に揺られる。この半島のいつもと同じ風景や、当たり前の自然に価値がある。体験を伴う観光を提供して、私たち自身がそのことに気づかされた。
良い景色で記念写真を撮り土産を買い次へ移動する従来型に対し、その地域の自然や文化について体験を通してより深く知るのが体験型観光。時間をかけて楽しさとともに地域を知ることで、来訪者と地域の間につながりが生まれる。来訪者の応援が、この地域の自然や文化を守ることにもつながる。
夜と星空
「天の川って本当にあったんだ!」物語の中だけのものだと思っていた、と都会から来た人は言う。夜、見上げればあたりまえに天の川。夜空の星を浮かび上がらせることができるのは、地上の暗さ。
夏は銀河系の中心部を見ているので星の密度が濃い。冬は外方向を見るので薄い。冬でも夏でも天の川を見ることができる平久保半島の夜の暗さ、そのものに価値がある。南十字星を国内で観察できるのは八重山諸島だけ。便利さとともに街が明るくなるにつれ、暗いことの価値は上がっていく。
HOW IT CONNECTS
インタープリテーション計画は「伝える」ための計画、条例は「守る」ための仕組みです。この2つは同じものの表と裏で、伝える価値がなければ守る意味がなく、守る仕組みがなければ伝える対象そのものが失われます。
ストーリー「夜と星空」
→ 条例案 第3章
冊子が伝える「暗さの価値」を、照明の色温度3,000K以下・総光束量の上限という数値で守ります。
ガイド育成
→ 条例案 第19条
計画で進める地元ガイドの育成が、条例の認定ガイド制度として位置づけられます。
エコロードと安良村
→ 条例案 第5章
エコロードの維持管理は協議会の年次事業であり、条例の自然利用区域と対応します。
ACTIVATION PLAN
冊子を作って終わりにしません。計画を実際に動かすための5つの柱を、協議会の年次事業として進めます。
半島の自然や文化に詳しい地元の方を対象にインタープリテーション研修を実施し、地元主体で語り継がれる案内をつくります。育成したガイドは、条例案 第19条の認定ガイド制度へ接続します。
小中学校と連携し、星空や自然に関する学習教材を開発します。カレンダーとキーワード集は、そのまま教材として使える形になっています。
9つのストーリーを、認定事業者のツアー内容に共通の土台として組み込みます。どの事業者から参加しても、同じ価値が伝わる状態を目指します。
エコロードや海岸に、統一デザインの多言語サインを整備します。「親しんでもらいたい自然」と「そっとしておきたい自然」を、現地で分かるようにします。
冊子は Ver.1.0 です。集落から新たに伺った話を追記し、版を重ねていきます。語り継ぐ人が増えるほど、この計画は厚くなります。
HOW TO SPEND TIME
半島の歩き方、食事や宿、アクセス、エリアごとのストーリーは、八重山ビジターズビューローと石垣市の事業で制作した公式サイトにまとまっています。
半島でのガイド、学校の授業、事業者の案内内容づくりに、ご自由にお使いください。イラストは冊子より引用しています。